笹谷益祥氏●1955年、兵庫県生まれ。
大阪芸大建築科卒。1989年、現在の工房「M.P.SASATANI」を設立。
岐阜県可児郡御嵩町上ノ郷6492
TEL0574-67-1593
私は普段は無垢の木でテーブルや椅子、本棚、キッチンなどの注文家具を製作していますが、最近、古い建物の廃材を利用して家具等の依頼にお応えしています。たとえば、愛知県一宮市のお寺の本堂の古材で落慶法要用の壁掛けを作りました。
また、岐阜県瑞浪市のお寺にあった欄間を使って座卓を作りました。またある旧家の蔵に仕舞ってあった長持は、そのままの形を利用しながらレールやキャスターも付けてチェストにしました。これは、奥様がご主人の形見として大切にされていたもので、「お父さんのイメージ」をいつまでも身近に残しておきたい、ということで発案しました。古くなった家を建て替えるとき、その廃材を利用して納屋も造ります。
古い家や寺社には宝物がいっぱい眠っています。言い伝えのある、思い入れのある“木”だからこそ、それを残そう。ただ単に残すのではなく、新しい形にして身近なものとしていつまでも残そう、利用しよう、ということです。捨てるなんて勿体ないことです。古材は甦り、意味のある場所でいつまでも存在感を持って生き続けるのです。
テーブル、椅子、チェスト、本棚、キッチンなどさまざまな家具にします。オーダーを頂いてからその都度廃材をリメイクしていくわけです。お話を頂いた段階では一体どんなものになるか、全く予想がつかないことも多々あります。私の母校から依頼があり、校庭にあった銀杏の木がある事情で伐採しなければならなくなりました。校長や関係者と「何にしようか」と相談しながら、決めたのが校長室に置くテーブルということでした。そこで私は、この木を使ったテーブルにどんな物語が与えられるべきか考えました。校長室の窓から眺めることのできた銀杏の木…。窓から校長室にその影が映えていた銀杏の木…。私は、その窓に対して、今度は校長室の中でその銀杏の木が立っているようなデザインでテーブルを作りました。さらに、使いやすいように左右対称のブックマッチタイプにしたのです。
私の祖父は、木製バスの運転手からタクシーの運転手になりカフェもやっていたそうです。そして、伊万里・古伊万里の皿を収集していました。また、フランス帰りの叔母は、やはり趣味の人で「きりこ」のガラス工芸品を収集しています。何か伝統的で価値ある古いモノに惹かれる家系なのでしょうか。私自身は、大阪芸大を卒業後、欄間師の師匠のもと、3年間木工のいろはを教わりました。道具に大変こだわりを持った人で、「削る道具」づくり…特に刃の作り方を徹底的に教わったのです。そのお陰で現在、きめ細かな風合いや機能性を追求することができ、一般的にはできないこともこの道具によってできるのです。
この師匠の遺言で私に貴重な“ローズウッド”という材料を頂きました。大変貴重なものですが、そのままにしておいても意味がありません。セントレア(中部国際空港)の名鉄系ホテルからの依頼で、オープンに併せて貴重品を入れる「オーバーナイトトレイ」を数百個作ってほしいという依頼があったとき、このローズウッドを使うことにしました。世の中の役に立ち、人々の間で大切にされる存在だからです。もちろん、師匠から教わった道具を使って、きめ細かな細工をして納品しました。出来映えがよかったのか、追加注文も頂きました。師匠もきっと喜んでくれたと思います。
一つの仕事を頂いたとき、お客さんとのコミュニケーションをとても大切にしています。その中でふとインスピレーションが湧くのです。そして、そのモノづくりを完成させるためのイメージを頭の中で明確に描きます。師匠もそうでしたが、そこのところの工程を大切にしています。後は手際良さ。だから、きめ細かな対応のできるさまざまな種類の道具は重要です。時間も貴重です。その中で、できるだけ多くの人に会いたいからです。古いものを何とかしたい…と思っている人に会ってそれを実現してあげたいのです。私も同じ気持ちです。日本の伝統技術を活かしながら、現代生活に活かされるデザインと機能で甦らせる…。人の思い入れを大切にして甦らせる…。この仕事を通じてお客さんの感動を肌で感じ続けていきたいと思っています。
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